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最高裁判所第一小法廷 昭和36年(オ)448号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

上告代理人弁護士奥山八郎、同安田重雄、同手塚義雄の上告理由第一点について。

原判決は挙示の証拠により、本件係争土地は昭和一九年まで池田金蔵が賃借していたが、右契約は解除され右土地は本間歓司に返還されたこと、然るに本間歓司は網代孝の母網代かつに依頼して右土地を昭和二〇年及び同二一年耕作させたが、右耕作については本間歓司は何ら従事せず、田の見回りも耕作の指図もせず、種苗、肥料の供与もせず、一切を網代かつに任せていたこと、そして同人は収穫米を全部本間歓司に渡し手間賃を受け取つていたのであるが、以上の事実から見ると網代かつは昭和二〇年一一月二三日の基準日には本間歓司との請負契約に基づき右土地の耕作の業務を営んでいたものと認むべきであると、認定した上、自作農創設特別措置法第六条の四によれば、同法六条の二の規定の適用については請負契約に基づいて耕作の業務を営んでいた者は小作農とみなされ、当該自作地は小作地とみなされるから、右土地は基準日には小作地とみなされて遡及買収の対象となるのである、ところで小作地も仮装自作地も土地所有者が耕作の業務を営まず耕作者が耕作の業務を営んでいる点は同一であつて、遡及買収の対象としての取扱も差異がないから、仮装自作地を小作地と誤つてなされた買収処分には重大な瑕疵はなく、この誤りは取消の事由とはならないと判示していることは判文上明らかである。しかしながら、自創法三条一項に該当する小作地なりとし、これを対象としてなされた遡及買収の行政処分を、裁判所が右判示の如き理由で同条五号に該当する仮装自作地買収の行政処分に外ならないとしこれを有効として前者の行政処分を維持するが如きは許されないところであることは、当裁判所昭和二五年(オ)第三八三号同二八年一二月二八日第一小法廷判決(民集七巻一三号一六九六頁参照)の趣旨に照し明らかであるが、その点はともあれ、遡及買収の申請適格者は基準日当日当該小作地につき耕作の業務を営んでいた小作農またはその相続人たることを必要とし(自創法六条の二、同条の四参照)しかもここにいう相続人とは、すでに相続をしている者であつて、相続すべき地位にある者を包含しないものと解すべきにかかわらず、原判決は前示孝からなされた遡及買収の申請につき(この点は第一審以来当事者間に争ない事実であること判文上明らかである)孝が前示かつの子であるということを判示しただけで、孝がかつから委任されて申請の権限をもつていたかどうか、或は地主である本間歓司において右申請の形式について異議がなかつたかどうか等の点につき何ら思を運らすことなく漫然として孝からなされた遡及買収の申請を容れて前示歓司に対してなされた買収処分を有効と判断したのは、審理不尽ないしは理由不備の欠陥を蔵するものであつて、論旨は結局理由あるに帰し、原判決は爾余の論点の審究をまつまでもなく到底破棄を免れないものと認める。

よつて、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七)

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